日々の健康管理で行う血圧測定や、看護実習・救急救命の現場、さらには日常生活でのケガによる出血時の応急手当において、「上腕動脈がどこにあるのか分からない」「肘の内側を探しても拍動を感じられない」という疑問や戸惑いの声は後を絶ちません。手首の橈骨動脈と比べて皮膚の深部を走行しているため、位置の目安を感覚だけで探そうとすると見失いがちです。
上腕動脈は、正しい解剖学的な指標(ランドマーク)と指の使い方さえ押さえれば、誰でも迷わず触れることができる重要な血管です。本稿では、医療・救急の最新ガイドラインや臨床現場の知見をもとに、上腕動脈の正確な位置、触れない場合の構造的・技術的要因、血圧計のマンシェット装着や止血手技での実践ポイントまでを余すところなく解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:上腕動脈の基本位置は「肘の内側(肘窩内側)」かつ「上腕二頭筋腱の内側縁」にある。
- 要点2:脈が触れない主な原因は「腕の力み」「指で強く押しすぎ」「探索位置のズレ」の3点。
- 要点3:血圧測定や間接圧迫止血法を正しく行うには、腕の内側中央から肘にかけて走る解剖ルートの把握が不可欠。
【解剖図で把握】上腕動脈の走行ルートと基本的な触知部位
上腕動脈(じょうわんどうみゃく)を探す際、闇雲に腕を触るのではなく、まずは血管がどのように腕を通っているかという全体像を理解することが近道です。日本解剖学会の標準テキストや臨床手技マニュアルに示されている走行ルートを確認しましょう。
上腕動脈は、脇の下を通る「腋窩動脈(えきかどうみゃく)」から続いており、二の腕の内側(上腕の内側)をまっすぐ下行して肘の前面へと向かいます。その後、肘のくぼみである肘窩(ちゅうか)の内側を通過し、前腕へ入ったところで親指側へ向かう「橈骨動脈」と小指側へ向かう「尺骨動脈」の2本に分岐します。
日常のバイタルサイン測定や応急手当で最も頻繁に触れる上腕動脈の触知部位は、この「肘窩の内側」です。体表から最も拍動を確認しやすいポイントであり、聴診器のチェストピースを当てる基準位置でもあります。
【現場直伝】肘の内側で脈が触れない意外な原因と見つけ方のコツ
「肘の内側をいくら探しても脈が全く触れない」というトラブルは、看護学生の実習現場や家庭での血圧測定時によく見られます。結論から言えば、血管が存在しないわけではなく、触り方や被験者の姿勢に原因が潜んでいます。
現場指導の臨床データや手技指導の場において報告される「脈が触れない主な理由」は以下の通りです。
- 腕に力が入っている(上腕二頭筋の緊張):肘を曲げたり緊張したりしていると、筋肉や腱が硬くなり、その下を通る動脈の拍動が遮断されて指先に届きません。
- 指を強く押し込みすぎている:拍動を感じようと焦るあまり指先を強く押し込むと、動脈自体を圧迫して血流を止めてしまい、拍動が消失します。
- 親指で探している:親指の腹には検者自身の強い動脈拍動があるため、相手の拍動と混同しやすくなります。
- 皮下脂肪の厚みや解剖学的個体差:皮下脂肪が厚い場合や筋肉量が極端に多い場合、浅い触知では拍動が皮膚表面まで伝わりにくい傾向があります。
確実に脈を見つけるための上腕動脈の見つけ方のコツは、以下の3ステップです。
- 被験者の腕をリラックスさせ、手のひらを上に向けて肘を軽く伸ばした状態(軽度屈曲位)にする。
- 肘を軽く曲げたときにポコッと浮き出る力こぶの腱(上腕二頭筋腱)を確認し、その内側縁(親指側ではなく小指側の縁)に指を置く。
- 示指(人差し指)と中指の2〜3本の指の腹を揃えて軽く当て、皮膚を1〜2mm沈める程度のソフトな力加減で拍動を感じ取る。
【手技比較】上腕動脈と橈骨動脈の違い&測定・手当の基準データ
脈拍測定や循環動態の確認において、上腕動脈と並んで多用されるのが手首の橈骨動脈です。両者の特徴や臨床的な使い分けについて、以下の比較表にまとめました。
| 項目 | 上腕動脈(肘窩内側) | 橈骨動脈(手首親指側) | 現場での判断基準 |
|---|---|---|---|
| 主な用途 | 上腕血圧測定、乳児の脈拍測定、前腕出血時の止血点 | 成人・小児の一般的な脈拍測定、不整脈のスクリーニング | 成人のバイタル測定は橈骨、血圧測定・止血は上腕を選択 |
| 血管の深さ・太さ | 中層〜深層(血管径:約4〜5mm) | 浅層・骨の直上(血管径:約2〜3mm) | 上腕動脈は太いがやや深く、橈骨動脈は細いが骨支持があり触知容易 |
| 血圧低下時の触知限界 | 収縮期血圧 70mmHg前後まで触知可能 | 収縮期血圧 80mmHg以上が必要 | ショック時など末梢循環不全の際は上腕動脈の確認が優先される |
| 失敗しやすいポイント | 二頭筋腱の外側を探す、圧迫が強すぎる | 腱の真上を押す、指の当て方が斜め | 解剖指標(腱の内側/茎状突起の内側)の目視確認が必須 |
【実践手順】血圧測定マンシェットの巻き方と間接圧迫止血法
上腕動脈の位置を正確に把握することは、看護ケアにおける正確な血圧測定と、救急救命における大出血の制御という2つの重大な手技に直結します。
1. 正確な血圧測定を行うためのマンシェット装着法
日本高血圧学会のガイドラインにおいて、血圧計のゴム嚢(カフ・マンシェット)の正しい位置決めは、測定誤差を防ぐ最重要項目とされています。
- 動脈マークの位置合わせ:マンシェットに印字されている「動脈マーク(ARTERY)」やゴムチューブの根元が、上腕二頭筋腱の内側を通る上腕動脈の直上に来るように配置します。
- 装着位置の高さ:マンシェットの下縁が肘窩の関節線から1〜2cm上になるように巻きます。肘関節にカフがかかると肘の屈伸で圧迫圧が不安定になり、測定値に10mmHg以上のズレが生じるリスクがあります。
- 巻きの強さ:指が1〜2本入る程度のゆとりを持たせ、均等な強さで巻くのが原則です。
2. 前腕・手の出血を止める間接圧迫止血法
前腕や手首、手のひらなどに深い切り傷を負い激しく出血している場合、直接圧迫止血法(傷口をガーゼ越しに直接強く圧迫する方法)と併せて、あるいは直接圧迫が困難な場面で間接圧迫止血法が用いられます。
上腕動脈の止血点は、上腕の内側中央部(二の腕の内側の溝)です。ここにある上腕動脈を、上腕骨(腕の骨)に向かって指の腹4本で挟み込むように強く押し当てることで、傷口へ送られる血流を一時的に遮断し、出血を最小限に抑えることができます。
【実態検証】臨床現場や実技練習でつまずきやすい落とし穴
看護学生の実技試験(OSCE)や新人研修、あるいは在宅介護の現場において、上腕動脈の触知でミスが多発する典型的なパターンを検証します。
現場アンケートや教育指導者の報告によると、触知に失敗する最大の要因は「肘関節の真ん中を探してしまうこと」です。一般に「肘の内側」という言葉を聞くと、腕の内面(前面)のど真ん中を触ってしまいがちですが、実際の上腕動脈は中央よりやや小指寄り(内側)に位置しています。
また、乳児のバイタルチェックにおける注意点も見逃せません。成人の場合は橈骨動脈で脈拍測定を行いますが、乳児は首が短く手首の皮下脂肪が厚いため、上腕動脈の拍動確認が一次救命処置(BLS)の標準手順となっています。乳児の上腕動脈は二の腕の内側中央の溝を優しく触れることで拍動を確認できますが、強く圧迫しすぎると血流が遮断されるため、極めて繊細な力加減が求められます。
【プロの結論】確実に触知するための判断基準と練習のステップ
上腕動脈を短時間で確実に触知できるようになるためには、感覚に頼るのではなく「手順のルーティン化」が不可欠です。現場で推奨されるセルフチェックおよび練習基準は以下の通りです。
【上腕動脈触知のセルフチェックステップ】
- ステップ1(腱の同定):肘を軽く曲げて力を入れ、肘の内側に硬い「上腕二頭筋腱」が浮き出るのを指で確かめる。
- ステップ2(リラックス):位置を確認したら腕の力を完全に抜き、腱のすぐ小指側(内側縁)に人差し指と中指の腹を滑り込ませる。
- ステップ3(圧の微調整):皮膚を優しく押し、拍動の波(脈波)が指先全体に最も強く響く深さでキープする。
この手順を自身の腕で数回反復し、「腱の硬さ」と「拍動の柔らかさ」の境界を指先で覚えることが、あらゆる体型の対象者に対して迷わず触知できるようになる最短の道です。
【上腕 動脈 どこ】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:上腕動脈は右腕と左腕で位置が違いますか?
A1:左右対称の構造をしているため、位置に違いはありません。どちらの腕でも、肘を曲げたときにできる力こぶの腱(上腕二頭筋腱)の「内側(小指側)」を走行しています。血圧測定の際も同様のランドマークを目安に装着します。
Q2:家庭用血圧計で上腕動脈の位置がずれると測定値はどうなりますか?
A2:マンシェットのセンサー(動脈マーク)が上腕動脈の真上から大幅にずれると、血管にかかる圧力を正確に感知できず、血圧が実際より高くまたは低く誤測定される原因になります。装着前に必ず肘の内側の拍動位置を確認しましょう。
Q3:なぜ手首(橈骨動脈)ではなく上腕動脈で血圧を測るのが推奨されるのですか?
A3:上腕動脈は心臓とほぼ同じ高さにあり、手首の血管よりも太く中枢に近いため、全身の正確な動脈圧を安定して測定できるからです。手首式血圧計よりも上腕式血圧計の方が日本高血圧学会等で標準推奨されているのもこの解剖学的理由によります。
まとめ:正しい位置把握が医療ケアと応急手当の精度を高める
上腕動脈は、解剖学的な指標である「上腕二頭筋腱の内側縁」と「肘窩の内側」さえ押さえれば、誰でも確実に特定できる血管です。脈が触れないと感じたときは、腕の力を抜くこと、そして指先で強く押し込みすぎないことを意識するだけで、拍動の捉えやすさが劇的に変わります。
日頃の血圧管理の正確性を高めるためにも、万が一の止血手技に備えるためにも、まずはご自身の腕で上腕動脈の確かな拍動を確かめてみてください。 (出典: 上腕 動脈 どこ(Yahoo!ニュース))